第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ティアナを見つめていたら、
ふと彼女がこちらを振り向き、柔らかく笑いかけてきた。

その瞬間、胸がきゅっとなる。

「……可愛いな」

思わず漏れた声に、ティアナが瞬きをした。

「え? 今なんて――」

「ちょっとそこ、イチャイチャしないでよ!」

テオが勢いよく割り込んできた。

その声に、周囲の騎士団員たちが一斉にオロオロし始める。

「そ、そうですよ!
 お嬢様はまだ俺たちのお嬢様なんですから!」

「ディラン様に取られるわけには……!」

「囲め! 陣形を組め!」

なぜか一瞬で隊列が整い、
ティアナを中心に“守る陣”ができあがる。

「おい、やめろ。俺は別に――」

俺は眉をひそめるが、
騎士団員たちは聞く耳を持たない。

「お嬢様を守れ!」

「ディラン様から距離を取らせろ!」

「いや、だから俺は敵じゃ――」

わちゃわちゃと騒ぎながら、
しかし妙に統率の取れた動きでティアナを囲む第3騎士団。

その様子を見て、セナが静かに笑った。

「……相変わらずですね、皆さん」

穏やかで、どこか誇らしげな笑み。

ティアナは困ったように笑い、
俺は深く息を吐く。

「本当に君の騎士団は手強いな」

俺が小さく笑いながら言う。

「ですね」

ティアナが微笑む。
その笑顔は、誇りと安心と、少しの照れが混ざった柔らかいものだった。

周囲では、まだ騎士団員たちがわいわいと騒ぎ、
テオが文句を言い、ロベルトが笑い、
アレンが真っ赤になって頷いている。

セナはその中心で、穏やかに皆を見守っていた。

賑やかで、温かくて、
どこか懐かしいような時間。

俺はその光景を眺めながら、
胸の奥に静かな確信が広がっていくのを感じていた。

――ここから、きっと良い方へ変わっていく。

ティアナが築いてきたもの。
騎士団が守ってきたもの。
そして、これから自分が隣で支えていくもの。

そのすべてが、今この瞬間、
確かにひとつに繋がっている。

俺はそっと息を吐き、
ティアナの顔に目を向けた。

「……いい光景だな」

その言葉に、ティアナはまた微笑んだ。

それだけで十分だった。