第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ティアナ side

セナが決めた技を見て、思わず目を見開いた。

――あれ。
前に、私がセナに仕掛けた技だ。

そして、
あっさりと塞がれた、あの一手。

同じ形なのに、
こんなにも迷いなく、綺麗に決められるなんて。

……私、よくあんな強いセナに
6人がかりとはいえ勝てたなー。

今さらながら、背筋がひやりとする。

「さすがだな、セナ」

ディランが感嘆したように声を漏らす。

「ですね!」

思わず即答していた。

「誇らしそうだな」

「もちろんです。
 私の自慢の護衛騎士ですから」

胸を張って言うと、
ディランは横目で私を見て、少しだけ目を細めた。

「……そうだな。
 彼に勝つのは、なかなか厳しそうだ」

その声は穏やかで、
でもどこか甘くて、少しだけ拗ねた色が混じっている。

「仲良くしてください」

「……仲はいいさ。酒を交わした仲だ」

「えっ」

思わずディランを見る。

「そうなんですか?」

「ああ。
 意外か?」

へぇ……。

あのセナが、
ディランと酒を酌み交わすほどに。

知らないところで、
関係は静かに、でも確かに深まっていたらしい。

セナが、こちらを見た。

勝利の余韻も、興奮もすでに抑え込んだ、
いつもの冷静な目。

私は小さく頷く。

――よくやった。

言葉にしなくても、
それだけで十分だった。

セナは一瞬だけ口元を緩め、
すぐに前を向いた。

そのさりげない仕草が、
なんだか誇らしくて、胸が温かくなる。

その時だった。
隣で、ディランがぽつりとつぶやいた。

「……あんなにかっこいい騎士がそばにいたら、好きになるな……」

小さすぎる声。
独り言のようで、でも確かに聞こえた。

「え? いま何か言いました?」

ディランは一瞬だけ目をそらし、
すぐに、いつもの柔らかい笑みを浮かべた。

「いや。俺も負けてられないなって思っただけだ」

「そうですね。私もです!」

そう返すと、
ディランは小さく笑い、肩の力を抜いた。

「……うん。それならいい」

その声は穏やかだった。