第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

オリバー団長の剣は、
力任せではない。
無駄がなく、常にこちらの体勢を削りにくる。

受けるたびに、腕にじわりと圧が溜まる。

……強い。

だが、その強さは
「正面から叩き潰す」ものではない。

隙を待ち、
確実な一手で終わらせる剣。

だからこそ――
読める。

俺は、わずかに後退する。
あえて、押されているように見せた。

一歩。
さらに半歩。

氷の魔力を抑え、
守りに徹する。

――来る。

「……そろそろ、終わりにする!」

踏み込みと同時に、
団長が一気に距離を詰めてきた。

速い。
だが、想定通りだ。

俺は、それを――待っていた。

誘い込むように、
剣をわずかに下げる。

次の瞬間。

懐へ。

一気に距離を詰め、
剣を反転させる。

迷いはない。

刃先が、一直線に――顎先へ向かう。

一瞬、
オリバー団長の動きが止まった。

俺の剣が、
団長の剣より、ほんのわずかに早く――
顎先を捉えた。

沈黙。

「……ま、参りました」

短く、だがはっきりとした声。

次の瞬間――

「わああああ!!」

「すごい! すごいですよ!!」

「セナ副団長が……勝った!!」

歓声が、決闘場を揺らす。

剣を引いた瞬間、
脳裏に、練習場の光景がよみがえる。

――あの日。

お嬢様は、
今と同じ動きで懐に入ろうとした。

だが俺は、
一歩も迷わず踏み込み――
その剣を、先に止めた。

体力切れの振りをして俺を誘い、
正確に顎先を狙いにきた彼女に、

『お嬢様、お見事ですね』

そう言ったら、
むっとした顔で睨みつけられたこと。

悔しそうに、
それでもどこか納得した顔で。

だから俺は、
あの動きを――
“通じる形”に変えた。

お嬢様が積み上げてきたもの。
それを、確かに――形にできた。