第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

刃と刃がぶつかる。

金属音が、空気を切り裂いた。

一撃。
二撃。
三撃――

互いに退かない。

エリックの剣は重く、正確で、
一太刀ごとにこちらの体勢を削りにくる。

……強い。

腕が痺れる。
踏み込みも、少しずつ重くなってきた。

それでも。

俺の剣は止まらない。

スピネルが熱を帯びていく。
感情に呼応して、深紅の魔力がさらに濃く染まる。

「っ……!」

エリックが間合いを詰め、
鋭い連撃を放ってくる。

受ける。
弾く。
かわしきれず、火花が散る。

一瞬、視界が揺れた。

その隙を、エリックは逃さない。

重い一撃。

剣が、弾かれた。

――まずい。

そう思った、その瞬間。

胸の奥で、何かがはっきりと形を持つ。

負けたくない。
勝ちたい。

理由は、たったひとつ。

お嬢様との約束だ。

「――っ!」

俺は、迷わず踏み込んだ。

防御を捨て、
スピネルの刃を、一直線に突き出す。

深紅の軌跡が走る。

エリックの剣が、わずかに遅れた。

次の瞬間――

「……ま、参った」

確かに、そう聞こえた。

エリックの声だ。

そして――

「うおおおお!!」

「テオすごいぞ!!」

「よくやった!!」

歓声が、闘技場を包み込む。
さっきまでのざわめきとは、まるで別物だった。

俺は剣を下ろし、
目の前に立つエリックを見る。

……終わったんだ。


お嬢様をみる、ひらりと手を振るといつもの柔らかい笑顔を向ける。
可愛い…。
ただ隣にいるやつが気に入らないが。

そして俺は目の前のエリックに無意識に、手を差し出していた。
正直、振り払われるかもしれないと思った。

けど。

エリックは、一切の迷いなくその手を取った。

強く、しっかりと。

「俺の負けだ」

はっきりとした声。

「テオ……いや、テオさん」

……さん?

「あなたの剣は、美しい」

「……は?」

理解が追いつかない。

「いや、なんだあれは!
 あんなに鋭くて、紅い斬撃――
 綺麗すぎるだろ!」

興奮したように一気にまくしたてる。

「……は?」

思わず、もう一度聞き返した。

「テオさん!!
 俺を――あなたの弟子にしてください!!」

「はああぁぁ!?」

声が、裏返った。

……勝ったのに。
なんでこうなるんだ。

周囲の歓声は、
いつの間にか笑い混じりのざわめきに変わっていた。

俺は、
剣を持ったまま、ただ固まるしかなかった。