第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

テオ side

勝てば――
お嬢様との時間が、手に入る。

理由はそれで十分だった。
何が何でも勝つ。ただ、それだけだ。

俺は目の前の男を見据える。

エリック。
第2騎士団副団長。
そして――かつて、ダンスを熱心に教えてくれた相手。

前は、正直言って気に入らなかった。
理屈っぽくて、隙がなくて、
何より……お嬢様の隣に立つ資格があるように見えたから。

「エリック、よろしく」

「呼び捨てにするな」

「ダンスの指導、ありがとう。
 おかげでお嬢様と踊れた」

一瞬だけ、空気が止まる。

「……それは、よかったな」

ふん、と小さく鼻を鳴らす。
その反応で分かる。

――本気だな。

「でも、本気でいくよ」

「当たり前だ」

互いに剣を構える。
視線が交わり、雑音が消える。

そして――開始の合図。

「――紅く、鋭く。
 我が想いに応えよ、スピネル」

深紅の魔力が刀身を染め上げる。
燃えるような感情そのものが刃となり、
迷いを断ち切るためだけに研ぎ澄まされた剣。

スピネルは、躊躇を嫌う。
踏み出した意志にだけ、応える。

だから、迷わない。

一歩、踏み込む。

鋭い斬撃。
だがエリックは、それを正確に受け止めた。

「……っ!」

衝撃が腕に走る。
すぐに、打ち合いが続く。

重い。
速い。
――さすが、副団長。

「冷たく清く、ブルーサファイア」

エリックの魔宝石が淡く青く光る。
その光は冷静さと精確さを帯び、
鋭角な斬撃となって連続で襲いかかる。

一太刀が、頬をかすめた。

熱。
血の匂い。

……でも。

関係ない。

止まる理由には、ならない。

痛みは、俺がここに立っている証だ。
感情が、まだ燃えている証拠だ。

スピネルが、さらに深く応える。

俺は、躊躇なく距離を詰め――
剣を、突き立てた。