第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

間。

「どうして?」

視線が、鋭くなる。
さっきまで穏やかだったエメラルドの瞳が、
わずかに温度を失っている。

「テオだから?」

「それは、回答になっていない」

……やっぱり。

「信頼していますから」

それだけは、嘘じゃない。

だがディランは、納得していないようだった。
静かに息を吸い、低く呟く。

「……俺とのデートだって、
 まだまともにしていないのに」

「前にしましたよ。
 あ、でも――湖に落ちましたね」

思い出すのは、
マルクと鉢合わせて、そのまま事件に巻き込まれた日のこと。

「本当にな。
 見事に、邪魔が入った」

その言い方が、
どこまで、本気なのか冗談なのか分からなくて、
胸の奥が少しだけ、ちくりとする。

……でも。

「ほら、試合、始まりますよ」

私はそう言って、視線を闘技場へ戻した。

これ以上この話を続けたら、
今は集中できなくなる。

真横で、小さく息を吐く気配がした。

それでも、
彼もそれ以上は何も言わなかった。

ただ――
その沈黙の奥に、
ほんの少しだけ拗ねた気配が混じっていたのは、
気のせいではない。