第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「第2回戦。
 第2騎士団副団長 エリック。
 対するは、第3騎士団、テオ」

名前が告げられた瞬間、
観客席のあちこちから抑えきれない声が漏れる。

「おいおい、エリック副団長って、
 子爵家でも名高い剣士の家だろ?」

「それが、あんな若造が相手か?」

「……これは、さすがに余裕じゃないか」

ひそひそとした声。
そこに混じる、確かな侮り。

けれど――
当の本人は、そんな空気をまるで気にしていなかった。

テオは堂々と立ち、
まるで風すら味方につけているかのように、ゆったりと息を整えている。

そして、ふとこちらに気づいた。

目が合うと、
へにゃりと気の抜けるような笑顔を浮かべ、軽く手を振る。

……本当に、この場でやる顔じゃない。

思わず苦笑しながら、私も手を振り返す。

するとテオは、口を動かした。

――や・く・そ・く。

人差し指を口元に当てる仕草。

脳裏に、少し前のやり取りがよみがえる。

『勝ったらさ、
 お嬢様の時間、ちょうだい』

私はこくん、と小さく頷いた。

それだけで満足したのだろう。
テオはくるりと向き直り、相手と向かい合う。

……まったく。

すると、横から低い声が落ちてきた。

「……なんだか、非常に面白くないな」

「どうしました?」

「俺の婚約者が、
 目の前で堂々と口説かれている」

「口説くって……」

言いかけて、
あ、と気づく。

そして、追撃が来た。

「それで。
 “約束”とは、なんだ」

逃げ場はない。

「勝ったら、時間を作ってほしいと」

「それで?」

「……許可しました」