第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

しばらくは、アレンが押しているようにも見えた。
だが――さすがは経験を積んだ騎士団員だ。

派手な反撃はしない。
一歩引き、角度を変え、
アレンの鋭い攻撃を、確実に受け流していく。

攻めているはずなのに、
少しずつ、ほんのわずかずつ――主導権が削られていくのが分かる。

……これが、経験値。

気づいた時には、もう逃げ場はなかった。

「……ま、参りました」

静かな声とともに、
アレンの首筋で剣が止まる。

一瞬の沈黙。

相手の騎士も、本気だったのだろう。
額には汗が浮かび、
それでもどこか安堵したような表情をしていた。

勝ったからではない。
――全力を出し切った者だけが浮かべる顔だ。

アレンは悔しそうに唇を噛みしめながらも、
ゆっくりと剣を下ろす。
その背中は、負けた者のものとは思えないほど、まっすぐだった。

「なかなか、いい勝負だったな」

隣でディランが、満足そうに言う。

「迷いのない剣だ」

その言葉に、私は小さく頷く。

「ええ。
 ……まだ、強くなりますね」

断言だった。

今日の敗北は、終わりじゃない。
アレンは、この一戦で
自分の足りないものを、確かに掴んだ。

その悔しさも、
そのまっすぐな背中も――
きっと、次の勝利へつながっていく。