第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

会場はざわついていた。
それもそのはず――原因の大半は、隣にいるこの人だ。

「いやぁ、楽しみだな」

眩しいほどの金髪が揺れるたび、周囲の視線が一斉に吸い寄せられる。
本人はまるで自覚がないのが、なおさら厄介だ。

「……あまりキラキラしたオーラを出さないでください」

「出してないよ」

「出てます。騎士団員たちが完全にオロオロしてます」

「そう?」

本気で不思議そうに首を傾げるから、ため息が出る。
――この人は、立っているだけで場を乱す自覚がない。

今回の会場は、ラピスラズリ家所有の決闘場。
身内のみの観戦とはいえ、第1騎士団員もちらほら混じっている。
公式模擬決闘。
興味を持たれない方が、むしろおかしい。

視線を闘技場へ戻す。

見慣れた赤銅色の髪の青年――アレンが姿を現した。

……あ、これは緊張してる。

肩がわずかに強張り、歩幅が一定じゃない。
表情は作っているけれど、目が落ち着かない。
新人らしい、正直な緊張が全身からにじみ出ている。

相手は第2騎士団の中でも実力者。
組み合わせとしては、決して楽ではない。

こちらをちらりと見たアレンに、軽く手を振る。

その瞬間、彼はびくりと肩を震わせ、
慌てたように深く頭を下げた。

……ああ、やっぱり。

可哀想だけど、少しだけ微笑ましい。
応援しているつもりが、余計に緊張させてしまったかもしれない。

闘技場の中央で、2人が向かい合う。

仲介人を務めるのは、第1騎士団副団長。
この場にふさわしい、重みのある人選だ。

「では、魔宝石公式模擬決闘を行う。
 第一試合――
 第2騎士団、クリス。
 対するは、第3騎士団、アレン」

アレンの名が告げられた瞬間、
観客席のあちこちから、ひそひそとした声が漏れた。

「あいつ、まだ新人だろ?」

「第3騎士団って、他に人いないのかよ」

くすくすと、嘲るような笑い。

……なるほど。
この空気か。

私は小さく息を吸い、視線を逸らさずに闘技場を見つめる。

――だからこそ、だ。

この一戦は、
アレンにとっても、第3騎士団にとっても、
そして――私にとっても。

ただの模擬戦じゃ、終わらせない。