「完全に目をつけられたね、お嬢様」
「……ほんとにね」
私はゆっくりと剣を下ろす。
テオも同じように刃を収めた。
砕けた魔宝獣の残滓が、風にさらわれて消えていく。
蒼と紅の残光だけが、まだ空気に揺れていた。
周囲を見渡すと、令嬢たちは青ざめ、声も出せずに震えている。
教育係は胸を押さえ、崩れ落ちそうな足を必死に支えていた。
ほどなくして、騎士たちが駆けつける。
――だが、遅い。
最初から、
“間に合うかどうか”など問題ではなかったのだろう。
ディランがいない、この絶妙なタイミングで。
上から感じていた視線は、いつの間にか消えていた。
……逃げたわね。
確認は済んだ。
あとは、どう扱うかを決めるだけ。
「ティアナ様……」
ミラが震える声で私の名を呼ぶ。
私は振り返り、静かに微笑んだ。
「大丈夫です。もう終わりましたから」
その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
◇
その日のうちに通達が出た。
――王妃教育、危険事案発生につき一時終了とする。
「一時」
そう書かれてはいたけれど。
これは事実上の、打ち切りだ。
私は分かっていた。
これは配慮でも、善意でもない。
“これ以上、表で動かれると困る”
そう告げられているのと同じだ。
テオが隣で肩をすくめる。
「ずいぶん早いお開きだね」
「ええ」
私は空を見上げた。
静かな青。
何事もなかったかのような、穏やかな午後。
けれど確実に――
盤上の駒は、動き始めている。
「さて……」
小さく息を吐く。
「次は、こちらの番かな」
遠く離れた屋敷にいる仲間たちの顔が浮かぶ。
――早く、帰ろう。
嵐はもう、始まっているのだから。
第4部 完
「……ほんとにね」
私はゆっくりと剣を下ろす。
テオも同じように刃を収めた。
砕けた魔宝獣の残滓が、風にさらわれて消えていく。
蒼と紅の残光だけが、まだ空気に揺れていた。
周囲を見渡すと、令嬢たちは青ざめ、声も出せずに震えている。
教育係は胸を押さえ、崩れ落ちそうな足を必死に支えていた。
ほどなくして、騎士たちが駆けつける。
――だが、遅い。
最初から、
“間に合うかどうか”など問題ではなかったのだろう。
ディランがいない、この絶妙なタイミングで。
上から感じていた視線は、いつの間にか消えていた。
……逃げたわね。
確認は済んだ。
あとは、どう扱うかを決めるだけ。
「ティアナ様……」
ミラが震える声で私の名を呼ぶ。
私は振り返り、静かに微笑んだ。
「大丈夫です。もう終わりましたから」
その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
◇
その日のうちに通達が出た。
――王妃教育、危険事案発生につき一時終了とする。
「一時」
そう書かれてはいたけれど。
これは事実上の、打ち切りだ。
私は分かっていた。
これは配慮でも、善意でもない。
“これ以上、表で動かれると困る”
そう告げられているのと同じだ。
テオが隣で肩をすくめる。
「ずいぶん早いお開きだね」
「ええ」
私は空を見上げた。
静かな青。
何事もなかったかのような、穏やかな午後。
けれど確実に――
盤上の駒は、動き始めている。
「さて……」
小さく息を吐く。
「次は、こちらの番かな」
遠く離れた屋敷にいる仲間たちの顔が浮かぶ。
――早く、帰ろう。
嵐はもう、始まっているのだから。
第4部 完



