第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「お嬢さま!!」

叫びと同時に、テオの気配が背後に重なる。
その存在だけで、背中にあった緊張が一瞬だけ緩む。

「テオ!」

「なんなの、これ」

「多分、陛下」

背中を合わせ、声を落とす。
互いの呼吸が、戦場の中心で静かに重なる。

「あのたぬきジジイか」

テオが低く吐き捨てる。
怒りではなく、冷えた軽蔑。
その声音が、逆に恐ろしい。

「テオ、共鳴を使う」

「いいの?」

「たぶん陛下は、それを確認しようとしている。
だったら――見せてあげる」

「なるほどね」

獣の咆哮が近づく。
空気が震え、地面がわずかに軋む。

「どうせ、ここでやらなければ全員やられる」

「わかった」

その瞬間、空気が変わった。

「蒼き想いよ 応えて ラピスラズリ」

「紅く 鋭く 我が想いに応えよ スピネル」

――共鳴。

蒼と紅。
二つの光がぶつかるのではなく、絡み合い、溶け合い、ひとつの“意思”を形作る。

風に熱が混じり、刃に脈動が宿る。
まるで、世界そのものが色を変えたようだった。