私は一歩、前に出た。
「ティアナ嬢!?」
背後で、震えた声が上がる。
止めようとする声だと分かっていても、もう耳には届かない。
胸の奥で、何かが静かに燃える。
――息を吸う。
「蒼き風よ、導け。ラピスラズリ」
短剣が、魔力に応じて軋むような音を立てる。
刃が蒼い風をまとい、伸び、鋭く、長剣へと変わる。
迷いは、欠片もない。
踏み込む。
狼型の魔宝獣の額――
核となる宝石を、一直線に貫く。
――砕けた。
魔力が暴走し、獣の身体が霧のように崩れ落ちる。
その残滓が肌に触れた瞬間、冷たい悪意が散った。
「……っ!」
だが、その刹那。
背後。
嫌な気配が、重なる悲鳴とともに膨れ上がる。
「きゃあっ!」
振り向いた視界に、影が次々と滲み出る。
垣根の奥、植え込みの陰――
2体、3体……いや、もっと。
――増えている。
喉の奥が、ひりつく。
私は即座に位置を変え、令嬢たちの前に立つ。
「下がって!」
蒼い刃を振るい、一体の喉元を裂く。
だが、横からもう一体が飛びかかる。
回避。
「っ……!」
足が滑りかける。
背後には、怯えきった令嬢たちの気配。
――庇いながらの戦闘。
正直、きつい。
一体を斬れば、別の方向から牙が迫る。
狙いは、私ではない。
弱いところ。
逃げ遅れたローゼ。
「させない!」
踏み込み、蒼風を刃に乗せて横薙ぎに払う。
風圧だけで、獣が吹き飛ぶ。
だが、息が上がる。
魔力の消費が早い。
それに――
完成度が高い。
ただの擬似生命体じゃない。
動きが洗練されている。
私の癖を、見ている。
――上からの視線が、まだ消えない。
これは、試されている。
どこまで守れるか。
どこで折れるか。
歯を食いしばり、剣を構え直す。
私は、退かない。



