第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「それで、どうするの? こいつ」

テオが、興味を失ったように淡々と呟く。
その声音には、もはや“人間”への期待が一切ない。

「もう、用はなくない?」

「ま、待ってくれ! まだある!」

刺客の男は、縋るように叫んだ。
テオがゆっくりと視線を向ける。
その一瞬で、男の喉がひゅっと鳴った。

「……なに?」

冷たい問い。
それだけで、男の顔色がさらに青ざめる。

「でも、これを言ったら見逃してくれ!
もう二度と、お前らには近づかない! 約束だ!」

沈黙が落ちる。
風すら止まったような、重い沈黙。

「……ふーん」

テオは、ほんの少しだけ首を傾げた。
考えているというより――“遊んでいる”ような仕草。

「とりあえず、聞こうかな」

私が口を開くと、

「お嬢様がそう言うなら」

テオがゆるりと笑う。
だが紅い拘束は解かれない。
男はそのまま、必死に息を整えた。

「……あんたを狙ったのは、その令嬢だけじゃない」

胸の奥が、わずかに沈む。
嫌な予感が、形を持ち始める。

「もう一人……
あんたを“大人しくさせろ”って依頼してきた人物がいる」

「へえ」

私は短く返し、続きを促した。
男は観念したように目を伏せる。

「あんた……
ジョルジュ陛下に、目をつけられてる」

空気が、ひやりと冷えた。

――やはり。

胸の奥で、静かに何かが噛み合う。

これは、ただの脅しではない。
“警告”だ。
これ以上余計なことをするな。
王妃教育だけを受けていろ。
余計な動きを見せるな――と。

……なるほど。

そういう段階に、入ったというわけね。