ふっと、庭の奥――森の影が揺れた。
風ではない。
そこに“誰か”がいる。
――一人。
次の瞬間、背後の空気が沈む。
踏み込みの気配。
刃の気配。
来る。
相手の袖口から、短剣がみえる。
「――蒼き風よ、導け。ラピスラズリ」
振り向きざま、魔宝剣を起動する。
蒼い風が一気に広がり、刃を包む。
金属がぶつかる鋭い音が、静寂を裂いた。
防いだ。
刺客の目が見開かれ、一歩退く。
その一瞬の揺らぎ――逃すつもりはない。
私は踏み込み、距離を詰めた。
その時だった。
「ねぇ。
お嬢様に、何してるわけ?」
低く、地を這うような声。
刺客の背後に、いつの間にかテオが立っていた。
影のように、音もなく。
カラン、と短剣が地面に落ちる。
刺客の手が震えていた。
「……あ、あの……
は、離してくれ……」
「離すわけ、ないよね」
テオの声には温度がなかった。
ただ事実を述べるだけの、冷たい音。
「お嬢様に刃を向けた。
それだけで――お前の運命は、決まった」
刺客の喉がひゅっと鳴る。
「テオ、殺さないで」
私は強く言った。
命令として、願いとして。
「……なんで?」
ゆっくりと振り返ったテオの瞳が、紅く光る。
理性よりも本能が前に出た獣のような目。
「こいつ、いらないよ?」
じろり、と刺客を見下ろす視線。
命の重さを測るというより――
“価値があるかどうか”だけを見ている。
――まずい。
このままでは、テオが本当に“線”を越える。



