第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ローゼside

――許せない。

私はずっと、ディラン殿下を想ってきた。
幼い頃から、未来を約束された“候補”として。
努力も、我慢も、誇りも、すべてそのためだった。

それなのに――
どこからともなく現れた婚約者に、
簡単に奪われていいはずがない。

嫌がらせもした。
陰口も流した。
けれど――何も効かない。

まるで最初から、そんなもの存在しないかのように。
なによ、あの女。どれだけ神経が太いの。

それだけじゃない。
陛下は彼女に目をかけ、
アラン殿下と視察にまでいってる。
そしてディラン殿下は――彼女を、見ている。
しかも本気で。
私に向けられたことのない、眼差しだった。


努力してきた“私”ではなく。

胸の奥が、きりきりと軋む。

こんなの……耐えられるわけがない。
あの女がいる限り、私は永遠に選ばれないじゃない……。

「ローゼ様」

「なに?」

振り返ると、取り巻きの一人――スーザがいた。
彼女は、私以上に“私こそが殿下の隣に立つべきだ”と信じている子だ。

「私に、いい考えがあります。任せていただけますか?」

スーザの瞳は、どこか熱を帯びていた。
殿下の隣に立つのは、私であるべきなのだから。

「……王妃教育から辞退させられれば……」

ぽつりと漏らした私の言葉に、スーザは小さく微笑んだ。

「ええ。お任せください、ローゼ様」

その笑みは、私の想像よりもずっと冷たかった。
けれど私は、その違和感に気づかないふりをした。

「いいわ。任せるわ」

そう口にすると、スーザは深く頭を下げ――
その背中は、私の知らない方向へと歩き出していた。