「そんなハイスペックな兄がよ? ティアナちゃんとイチャイチャしてみなさいよ! そりゃもう、気が気じゃないでしょうよ!」
「……イチャイチャは、してないけど」
思わず即座に否定してしまう。
「とにかく、今回は王子様の気持ちも分かるわよ」
ルイが肩をすくめる。
「じゃあ……私は、どうすれば……?」
口に出した瞬間、余計に分からなくなった。
正解なんて、まったく浮かばない。
「そんなの簡単よ。ティアナちゃんから、ぎゅーってしたり、ちゅーってすればいいの」
「……いや、全然簡単じゃない」
即答だった。
「まあね。王子も少し大人気なかったし。でも、ティアナちゃんのこと、本当に大切に思ってるわよ?」
「はい。そこは私も認めております」
アリスも静かに頷く。
「……わかってる。わかってるけど……」
言葉が続かない。
嫉妬なんて、考えたこともなかった。
あの人がそんな感情を抱くなんて、想像すらしていなかった。
でも――
(あの時の顔……)
胸の奥が、また小さく疼く。
怒っていたわけでもない。
責めるようでもない。
ただ、苦しそうで。
触れたら壊れてしまいそうで。
「……辛いって、どういう意味なんだろう」
ぽつりと漏らした言葉に、アリスとルイは顔を見合わせ、優しく微笑んだ。
「それはね、ティアナちゃんが一番よく知ってるはずよ」
ルイがウィンクする。
「……え?」
「殿下の“辛さ”は、お嬢様に関わることです。お嬢様がどうしたいかで、きっと変わります」
アリスの声は穏やかだった。
胸の奥がざわつく。
わからない。
でも、このままわからないままではいられない。
「ありがとうね、二人とも」
「ええ」
「はい」
二人が揃って頷く。
「じゃあ、ルイ。あの件、お願いね。忙しいところ悪いけど」
「いいのよ! 楽しそうだし、まっかせなさーい!」
「……じゃあね。王子様と、ちゃーんと話すのよ」
ひらりと手を振り、ルイは軽やかに去っていった。
ちゃんと話す…
その言葉が、静かに胸に落ちる。



