第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

彼女が、甲冑の横に立てかけられていた剣を手に取り、黙々と素振りをしていたのは――

正直、面白すぎて、完全に予想外だった。

あんな状況で、
ドレスでも、宝石でもなく、
迷いなく剣を選ぶとは。

思わず、声を出して笑っていた。
あれほど自然に笑ったのは、いつ以来だろう。

だが、その直後。
胸の奥に、鈍い痛みが走った。

――窮屈な思いをさせている。

そう、はっきりと自覚したからだ。

王妃教育。
礼儀作法。
視線と評価に晒される日々。

彼女は文句ひとつ言わず、こなしている。
だが、それが「平気」だとは限らない。

そもそも――
俺は、彼女を王妃にしたいわけじゃない。

彼女自身が、それを望んでいないことも、
痛いほどわかっている。

それでも、手を離せない。

自由を奪っていると理解していながら、
それでもそばにいてほしいと願ってしまう。

……こんな男を、
彼女は、好きになってしまったのだろうか。

だけど――
それでも、そばにいたい。

それが俺のエゴだということも、わかっている。

王妃教育の授業をサボらせて、二人で抜け出した散歩。
彼女が「好きだ」と、はっきり口にしたこと。

……嬉しすぎた。

胸の奥が熱くなって、
この気持ちだけは疑いようがなかった。

夜遅く、怪しい侍女を見つけて、鎌をかけた。
まさか、それがティアナだとは思わなかった。

驚いた。
そして、妙に納得もした。

侍女の姿が、あまりにも様になっていたからだ。

レイが入ってくると察して、
わざと彼女を引き寄せ、クローゼットに隠れた。

ローゼの相手が面倒だったのも事実だ。
だが、それ以上に――

距離が、近すぎた。

吐息が触れそうで、
心臓の音がうるさくて。

触れたい衝動を、必死に抑えた。

彼女の体温がすぐそこにあるのに、
手を伸ばせば触れられる距離なのに。