第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

社交ダンスの授業。

本当は――
彼女の手を、迷わず取るつもりだった。

何も考えず、当たり前のように。
そうすればよかった。

だが、邪魔が入った。

公爵家の娘、ローゼ。
長年、婚約者候補として教育を受けてきた存在。
上が勝手に決めたこととはいえ、無下に扱える立場ではない。

……わかっている。
わかっているからこそ、腹立たしい。

一瞬の躊躇。
その、ほんのわずかな隙を。

ティアナは、迷いなくレイの手を取った。

息が、詰まる。

自然に微笑み合い、
指先が触れ、距離が近づく。

ああ――
ずるい。

俺の知らないところで、
俺のいない場所で。

彼女は、あんなふうに笑うのか。

俺だけと踊っていないじゃないか。

その事実が、胸の奥を鈍く、強く締め付けた。

……独占したいなんて、
王としてあるまじき感情だ。

それでも。

それでも俺は――
彼女の手を取れなかった自分を、
どうしようもなく、憎んでいた。

彼女の隣に立つ資格があると、
胸を張って言えるはずなのに。

ほんの一瞬の迷いで、
彼女の手は、別の男のものになった。

その光景が、焼き付いて離れない。

(……俺は、何をしている)

嫉妬が喉を焼き、
後悔が胸を締め付け、
自己嫌悪が静かに沈んでいく。

彼女を守りたいのに。
彼女の隣にいたいのに。

肝心なときに手を伸ばせない自分が、
誰よりも許せなかった。