第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランside

二人きりでの試験。
ティアナがジョルジュ陛下に何かされていないか――
そればかりが、頭から離れなかった。

だから。

彼女の顔を見た瞬間、胸の奥がひどく緩んだ。

……無事だ。

ただそれだけで、どれほど救われたか。

だが同時に、胸の奥に小さな違和感が刺さる。

彼女は、何かを隠している。
ジョルジュ陛下と、何かあった。
それは、ほぼ確信に近い。

それでも――
彼女は俺に言わない。

はっきりとした証拠がないからだろう。
そして何より。

ジョルジュ陛下が、
一応は俺の祖父であり、育ての親であるということを。
彼女なりに気を遣っているのだ。

……本当に。

優しい人だ。
優しすぎるほどに。

ローゼがティアナに嫌がらせをしていることも知っていた。
陰口、遠回しな牽制、悪意のこもった視線や行動。

それでもティアナは、下を向かなかった。

退屈極まりない王妃教育。
息が詰まるほどの規律と形式。
それでも彼女は、ここまで来た。

しかも――
完璧に、だ。

努力を誇ることもなく、
ただ静かに、前へ進む。

……そんな彼女を、
俺は本当に守れているのだろうか。

そう考えた瞬間、
胸の奥で、黒い感情が蠢いた。

嫉妬。
焦り。
不安。
そして――怒り。

彼女が何かを抱え込んでいるのに、
俺はそれを引き出すことすらできない。

守りたいのに、
守れている実感がない。

彼女の隣にいるはずなのに、
どこか遠くに感じる瞬間がある。

その距離が、たまらなく怖かった。

(……俺は、何をしている)

自嘲が胸を刺す。

彼女はあれほど頑張っているのに、
俺はただ、焦りと嫉妬に飲まれているだけだ。

静かに、しかし確実に、
黒い感情が形を持ち始めていた。