第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

そのあと、ディランは何も言わなかった。

ただ――
私の手を、離さない。

言葉はないのに、
その温度だけが、やけに重い。

やがて馬車が止まり、
私は促されるまま中へ乗せられた。

てっきり、ディランも乗るのだと思い、
無意識に席をずらす。

けれど。

「……先に帰ってくれ」

低く、抑えた声。

顔を上げると、
彼は視線を逸らしたまま続けた。

「今は……君の隣にいるのが、辛い」

胸の奥が、きゅっと縮む。

何か言い返そうとして、
でも言葉が見つからないまま。

馬車の扉が、閉じられた。

がたり、と鈍い音。

外の気配が、完全に遮断される。

……なによ、それ。

ひとり残された馬車の中で、
私は小さく息を吐いた。

守るためなのか。
逃げるためなのか。

そのどちらも混ざった不器用さが、
ひどく――ディランらしかった。