第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……それなら、これだな」

アラン殿下は迷いなく一つを選び、その瞬間、今日の目的はあっさりと果たされた。

帰り道――

ふわりと風が吹き抜ける。
昼間よりも冷たく、季節が確実に進んでいるのを肌で感じた。

(少し……寒い)

気づけば、私の髪に小さな葉が絡まっている。

「少し冷えるな……」

そう呟いたアラン殿下が、私の方へ手を伸ばした。

――髪についた葉を取ろうとしている。

そう理解したので、私はそのまま大人しくしていた。

その瞬間。

バシッ。

乾いた音が、頭上で弾けた。

「……え?」

驚いて顔を上げる。

視界に飛び込んできたのは、額に汗を滲ませたディランだった。
彼はアラン殿下の手首を、強く掴んでいる。

「兄上……」

低く抑えた声。

「勝手に、私の婚約者を連れ回すのはやめていただけますか?」

空気が、一瞬で張りつめた。

……怒ってる。

「ああ、すまなかった」

アラン殿下は素直に謝罪する。

だが――

ディランは、まだその手を離さない。

兄弟の視線が、静かにぶつかり合う。

そこにあるのは、子供じみた意地ではない。
積み重なった距離と、言葉にできない感情が火花を散らすような――

静かな、衝突だった。