第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……何を入れるつもりだったのですか?」

問いかけると、アラン殿下は少しだけ視線を逸らした。

「一言だけだ」

短い間のあと、どこか照れたように続ける。

「手紙を入れたかった。
『自慢の弟だ。お前らしく生きろ』ってな」

胸がきゅっと締め付けられる。

「……でも、入れられなかった」

「少し、照れくさくてな」

――この人は。

思わず、ため息が漏れた。

「ちゃんと、本人に言わないと駄目です」

はっきりと告げる。

「ディランは今でも、貴方に嫌われていると思っています」

「……な、なんだって!?」

アラン殿下が、信じられないというように身を乗り出す。

「『可哀想』という言葉を、同情だと思ったそうです」

「ディランは、“兄から奪ってしまった”と思っています」

「……違う」

アラン殿下は、頭を抱えた。

「私は、そんなつもりで……」

「私、ディランに前に言ったんです」

静かに続ける。

「まどろっこしい、って」

「……ん?」

「貴方も、ディランとよく似ています」

驚いたようにこちらを見るアラン殿下に、
私はまっすぐ視線を返した。

「言葉が足りないところも、不器用なところも」

「でも――大切に思っている気持ちだけは、本物です」

一瞬の沈黙。

そして、アラン殿下は苦笑した。

「……参ったな」

その笑みは、
王族でも、完璧なアレキサンドライト家の嫡男でもなく。

ただの、
弟を想い続けてきた一人の兄のものだった。