第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……だから、可哀想だと言った」

アラン殿下は淡々と続けた。
その声音には、同情ではなく、長い年月を抱えた悔恨が滲んでいる。

「その瞳の色を持たなければ、もっと自由に過ごせたはずだった。誰かの重圧に耐える必要なんて、本当はなかったのに――そう思った」

胸の奥がじんと熱くなる。

「そ、それは……」

言葉を探す私に、アラン殿下は静かに首を振った。

「心から、心配していたんだ」

……やはり。

胸の奥で、何かがすとんと落ちた。

「この前、別荘地にディランと行きました」

そう告げると、アラン殿下の瞳がわずかに揺れた。

「木のそばで…箱を見つけました」

「……やっと、か」

短く、安堵の息が漏れる。

「やはり、アラン殿下が用意されたものだったのですね」

「ああ」

ゆっくりと頷く。

「あいつが……心から信頼できる誰かと、一緒にやる日が来ればいいと思っていた。だが、両親が亡くなってからは、あそこへ行くこともなくなってな」

少しだけ、目を伏せる。

「……最後の箱の中身は、空っぽでした」

その言葉を告げた瞬間。

アラン殿下は驚いたように息を呑み、
そして――小さく、柔らかく微笑んだ。

「そうか」

穏やかな声。
ふと視線を落とし、何かを噛みしめるように目を閉じる。