「少し、話をしようか。弟がずいぶん君と親しくしているようだからな」
穏やかな口調。
けれどその声には、逃げ場を与えない圧があった。
――重い。
ディランの“感情の重さ”とは違う。
これは、理と経験で積み上げられた、静かで確かな重圧。
「……はい」
短く返事をし、正面に向き直る。
「悪いが、侍女は外してくれ。今日は二人で話がしたい」
その言葉に、アリスがわずかに身構えた。
さりげなく私の前に出ようとする気配が伝わり、胸が少し温かくなる。
私はそっと目で合図を送る。
――大丈夫。
アリスは頷いたのち、静かに一礼した。
「失礼いたします」
扉が閉まり、
室内には私とアラン殿下、二人きり。
静寂が落ちる。
だが、陛下と対峙したときのような、
背筋が凍るような恐怖はなかった。
代わりにあるのは、
逃げも誤魔化しも許されない、王族としての風格。
圧はある。
けれどそれは、暴力ではない。
積み重ねた思考と覚悟が、
空気そのものを重くしている――
そんな感覚だった。
私は無意識に、背筋を正していた。



