「返すついでに、一つだけ、いいか?」
嫌な予感しかしない。
「……なんですか」
「――ご主人様、って呼んでみて」
思考が一瞬で真っ白になる。
ぞわり、と背中を甘い悪戯みたいな感覚が撫でた。
「……この、バカディラン!!」
感情が先に口を突いて出た。
「ふんっ」
ぷいっと背を向けると、後ろでくすりと笑う気配。
「……可愛いな」
低く、愉しそうで、どこか甘やかすような声。
距離を取ろうと一歩踏み出した、その瞬間。
背後から、そっと抱きしめられた。
逃げ場がなくなるほど近い。
ディランの体温が、背中越しに伝わってくる。
耳元を掠める吐息。
「……紅茶、ありがとう」
低くて、優しくて、反則みたいな声。
「俺を労ってくれたんだろう」
胸の奥が、じんわり熱を帯びる。
「……まあ」
それ以上、言葉が出なかった。
「おやすみ」
抱く力が、ほんの少しだけ緩む。
「ティアナ」
名前を呼ばれただけで、心が引っ張られる。
「……はい」
ようやく身体を離し、扉に手をかける。
背中に、まだ視線が刺さっている。
去り際。
扉がゆっくりと開かれ、私は思わず振り返った。
扉にもたれ、どこか満足そうに微笑むディラン。
ひらりと手を振る仕草が、妙に優しい。
小さく頭を下げ、静かに部屋を後にする。
――扉が閉まってもなお、
彼の気配だけが、離れなかった。
嫌な予感しかしない。
「……なんですか」
「――ご主人様、って呼んでみて」
思考が一瞬で真っ白になる。
ぞわり、と背中を甘い悪戯みたいな感覚が撫でた。
「……この、バカディラン!!」
感情が先に口を突いて出た。
「ふんっ」
ぷいっと背を向けると、後ろでくすりと笑う気配。
「……可愛いな」
低く、愉しそうで、どこか甘やかすような声。
距離を取ろうと一歩踏み出した、その瞬間。
背後から、そっと抱きしめられた。
逃げ場がなくなるほど近い。
ディランの体温が、背中越しに伝わってくる。
耳元を掠める吐息。
「……紅茶、ありがとう」
低くて、優しくて、反則みたいな声。
「俺を労ってくれたんだろう」
胸の奥が、じんわり熱を帯びる。
「……まあ」
それ以上、言葉が出なかった。
「おやすみ」
抱く力が、ほんの少しだけ緩む。
「ティアナ」
名前を呼ばれただけで、心が引っ張られる。
「……はい」
ようやく身体を離し、扉に手をかける。
背中に、まだ視線が刺さっている。
去り際。
扉がゆっくりと開かれ、私は思わず振り返った。
扉にもたれ、どこか満足そうに微笑むディラン。
ひらりと手を振る仕草が、妙に優しい。
小さく頭を下げ、静かに部屋を後にする。
――扉が閉まってもなお、
彼の気配だけが、離れなかった。



