第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……俺の可愛い侍女を、このままずっと傍に置いておきたいが」

少しだけ低くなった声に、胸がくすぐったくなる。

「そうもいかないな」

空気が、ふっと張り詰めた。

「……も、戻ります」

逃げるように立ち上がったり歩き出した瞬間。


「……ティアナ」

背後から、落ち着いた声。

振り返ると、ディランが何かを指先でつまんでいた。

――ウィッグ。

「忘れもの」

そう言って、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「……あっ」

思わず手を伸ばそうとした瞬間。

「動かなくていい」

軽く制される。

ディランは、まるで宝物でも扱うようにウィッグを持ち、
私の前に立つと、そっと手を伸ばした。

指先が髪に触れる。
距離が近い。
息が触れそう。

「……ほら」

優しく、丁寧に。
まるで“触れたかった”と言わんばかりの仕草で、ウィッグを被せてくる。

「これで、君は俺の侍女だ」

小さく笑う声が、耳のすぐそばで落ちた。

「……ありがとうございます」

小さく呟いた声にディランは、満足そうに目を細める。