第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランは気にした様子もなく、ゆっくりとカップに口をつけた。
一口、喉を通る音まで聞こえそうなほど静かな時間。

そして、ふっと表情が緩む。

「……美味しいな」

「……本当ですか?」

「ああ。気持ちが、落ち着く」

その言い方があまりにも穏やかで、胸が少しだけ温かくなる。

「……心配だった」

低く、静かな声。
その一言に、胸の奥がきゅっとなる。

「陛下に呼ばれて、二人きりで試験をしたって聞いたとき」

一拍置いて、視線が深くなる。

「……何も、なかったか?」

私は一瞬だけ迷い、そして。

「はい」

しれっと嘘をついた。

ディランはじっと私を見つめる。
その目は、明らかに納得していない。

けれど。

「……そうか」

そう呟くと、ゆっくりと立ち上がり、私の横へ来る。
距離が近い。息が触れそう。

「……迷わず、剣で扉を斬り破って入ろうとした」

淡々とした声なのに、背筋がひやりとする。

「王子が、そんなことをしていいんですか」

「君が傷つくくらいなら」

視線が逸れない。
まっすぐで、揺らぎがない。

「王子なんて、やめてやるさ」

「また……そんなことを」

苦笑しながらも、胸の奥がざわつく。
そんなこと、言ってほしくないのに。
でも、言われると嬉しい自分もいて。

「君と向き合ってからだ」

エメラルドの瞳と目が合い、
心臓が跳ねる。

「こんなにも、自分の感情に正直でいられるようになったのは」

にこり、と優しく笑う。
その笑顔が、どうしようもなく甘い。

「それは……いいこと、ですかね」

「いいことだ」

迷いのない即答。
その目は、まるで“君がいるからだ”と語っているようで。

胸の奥が、じんわり熱くなる。