第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ガタッ。

小さな音が、やけに大きく響いた。

「……なんでしょうか?」

ローゼの声。

(まずい)

近くに置いてあった何かに、肘が当たったらしい。
その瞬間、ディランが反射的にこちらへ身を寄せてくる。

……ち、近い。

息が触れる。
心臓が、耳のすぐそばで暴れているみたいだ。

(やだ、音、絶対聞こえてる……!)

「……きっと、風でしょう」

レイさんが、淡々とした声で言う。
その直後、ほんの一瞬だけ、こちらへ視線を投げた――
ような気がした。

一秒が、異様に長い。

「もう遅いですから。お部屋までお送りしましょう」

少し間を置いて、レイさんが続ける。

「夜分に男性の部屋を訪れるのは、あまり感心できませんよ。ローゼ嬢」

「……す、すみません」

ローゼが小さく頭を下げる気配。
やがて二人分の足音が遠ざかり、扉が閉まった。

――しん。

空気が、急に軽くなる。

私は、弾かれたようにクローゼットから飛び出した。

「……あ、焦った……!」

胸に手を当てて、思わず息を吐く。

「いやー、危なかったな」

隣で、ディランが平然とした声を出す。

「……そもそも、なんでディランまで隠れるんですか?」

「ローゼ嬢が、ちょっと面倒でね」

即答。

「……へぇー」

じとっと睨むと、ディランが眉をひそめた。

「何だ、その顔は」

「いえ。別に」