第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランは、責めるでもなく、ただ静かに続けた。

「婚約者候補の侍女かもしれないが……侍女というものはね」

淡々とした口調なのに、妙に胸に刺さる。
むしろ、怒られているより怖い。

「主人が飲みやすい紅茶の温度を計算して、持ってくるものなんだよ」

その一言で、息が止まった。

ディランは、置かれたカップに視線を落とす前に、
ポットの蓋へそっと指を添えた。

「……湯気が薄いね。」

淡々とした声なのに、逃げ場がない。

「入れてきた場所から、ここまでは少し距離がある。
だから本来なら、もう少し熱いお湯で淹れるんだよ。」

視線が、私の置いたカップに落ちる。

「今そこにある紅茶は――私の好みの温度じゃない」

……た、確かに。

脳裏に浮かぶのは、ユウリやアリスが淹れてくれた紅茶。
いつも、少しだけ熱めで、時間が経っても美味しい、あの温度。

――それを、完全に忘れていた。

致命的なミスだ。

(まずい)

胸の奥が、きゅっと縮む。

(完全に……詰んだ)

逃げ道なんて、どこにもなかった。