第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


ディランが、ふうっと息を吐きながら襟元を緩めた。

「紅茶、置いてくれるかな」

そう言われて、私は一瞬だけ迷う。

(どこだ……?)

部屋を見回す。
ソファの前の、大きめのテーブル。

(ここで、いいよね……?)

そう判断して、私はそっと紅茶を置いた。

――よし。

役目は果たした。
あとは、何事もなかった顔で出ていくだけ。

そう思って踵を返した、その瞬間。

背後から、両手が伸びてきた。

逃げ道を塞ぐように。

「……さて」

低い声が、すぐ後ろで落ちる。

「君は、侍女じゃないね」

心臓が、凍りつく。

「何をしに来た?」

――ぞわっ。

背筋を冷たいものが走った。

(え、なんで!?
ウィッグは完璧だったはずなのに!?
声も出してない!)

混乱する私をよそに、ディランは淡々と続ける。

「私の侍女はね」

一拍。

「紅茶を置くとき、
必ず――そこの小さなテーブルに置くんだ」

視線の先。
ソファの脇にある、目立たない小さなテーブル。


(そんなの、知らん!!)