ディランが、ふうっと息を吐きながら襟元を緩めた。
「紅茶、置いてくれるかな」
そう言われて、私は一瞬だけ迷う。
(どこだ……?)
部屋を見回す。
ソファの前の、大きめのテーブル。
(ここで、いいよね……?)
そう判断して、私はそっと紅茶を置いた。
――よし。
役目は果たした。
あとは、何事もなかった顔で出ていくだけ。
そう思って踵を返した、その瞬間。
背後から、両手が伸びてきた。
逃げ道を塞ぐように。
「……さて」
低い声が、すぐ後ろで落ちる。
「君は、侍女じゃないね」
心臓が、凍りつく。
「何をしに来た?」
――ぞわっ。
背筋を冷たいものが走った。
(え、なんで!?
ウィッグは完璧だったはずなのに!?
声も出してない!)
混乱する私をよそに、ディランは淡々と続ける。
「私の侍女はね」
一拍。
「紅茶を置くとき、
必ず――そこの小さなテーブルに置くんだ」
視線の先。
ソファの脇にある、目立たない小さなテーブル。
(そんなの、知らん!!)



