第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「じゃあ、中に運んでくれるかい?」

その穏やかな声に、私はもう一度、静かに頷いた。

ディランが扉に手をかける。
その瞬間から、胸の鼓動がひとつ速くなる。

扉が開き――
部屋の中には、レイさんがいた。

(……まずい)

反射的に視線を落とし、
顔を見られないように深く俯く。

「殿下。先程、ローゼ嬢がいらっしゃいました」

「そうか。それで?」

「内容を確認いたしましたところ、ただの筆記テストのようでした」

「……そうか。分かった。もう下がれ」

「はい」

レイさんが一礼し、静かに部屋を出ていく。

そのすれ違いざま――
鋭い視線が、頬をかすめた気がした。

(っ……!)

心臓がぎゅっと縮む。
喉がひりつくほど緊張しているのに、息を吸うことすら忘れそうになる。

それでも私は、視線を伏せたまま、
“ただの侍女”を必死に演じ続けた。

(お願い……お願い……!)

扉が閉まる音がしても、まだ身体が固まったまま動かない。

――どうか、バレていませんように。

胸の奥で、祈るように願った。