「じゃあ、中に運んでくれるかい?」
その穏やかな声に、私はもう一度、静かに頷いた。
ディランが扉に手をかける。
その瞬間から、胸の鼓動がひとつ速くなる。
扉が開き――
部屋の中には、レイさんがいた。
(……まずい)
反射的に視線を落とし、
顔を見られないように深く俯く。
「殿下。先程、ローゼ嬢がいらっしゃいました」
「そうか。それで?」
「内容を確認いたしましたところ、ただの筆記テストのようでした」
「……そうか。分かった。もう下がれ」
「はい」
レイさんが一礼し、静かに部屋を出ていく。
そのすれ違いざま――
鋭い視線が、頬をかすめた気がした。
(っ……!)
心臓がぎゅっと縮む。
喉がひりつくほど緊張しているのに、息を吸うことすら忘れそうになる。
それでも私は、視線を伏せたまま、
“ただの侍女”を必死に演じ続けた。
(お願い……お願い……!)
扉が閉まる音がしても、まだ身体が固まったまま動かない。
――どうか、バレていませんように。
胸の奥で、祈るように願った。



