第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


胸の奥が、ちくりと痛んだ。

……気のせい。
そう言い聞かせて、私は背筋を伸ばす。

(というか、紅茶……いらなくない?
私が飲んじゃう?)

そんな現実逃避をしながらも、別の不安が頭をもたげる。

――声、バレないよね。

ウィッグは完璧。
服装も問題なし。

(まあ、低めの声でいけば……いける、はず)

そう思った、そのとき。

「何してるのかな」

低く、よく通る声。

「――私の部屋の前で」

「……っ!」

反射的に振り向こうとした瞬間、

「後ろ、振り向かなくていいよ」

背後から、すっと手が伸びてきた。

肩が一瞬、強張る。

その手が私の持つポットに触れ、
カチャリ、と蓋が開く。

ふわりと、レモンの爽やかさな香りが広がった。

「あれ。レモンバームだ」

……やっぱり、分かるんだ。

「これは、私に?」

その声は、さっきより少しだけ優しい。

私はゆっくりと頷いた。
こくん、と。

(よし。
今のところ、バレてない……よね?)

胸の鼓動を必死で抑えながら、
“侍女”の顔を崩さないようにした。