胸の奥が、ちくりと痛んだ。
……気のせい。
そう言い聞かせて、私は背筋を伸ばす。
(というか、紅茶……いらなくない?
私が飲んじゃう?)
そんな現実逃避をしながらも、別の不安が頭をもたげる。
――声、バレないよね。
ウィッグは完璧。
服装も問題なし。
(まあ、低めの声でいけば……いける、はず)
そう思った、そのとき。
「何してるのかな」
低く、よく通る声。
「――私の部屋の前で」
「……っ!」
反射的に振り向こうとした瞬間、
「後ろ、振り向かなくていいよ」
背後から、すっと手が伸びてきた。
肩が一瞬、強張る。
その手が私の持つポットに触れ、
カチャリ、と蓋が開く。
ふわりと、レモンの爽やかさな香りが広がった。
「あれ。レモンバームだ」
……やっぱり、分かるんだ。
「これは、私に?」
その声は、さっきより少しだけ優しい。
私はゆっくりと頷いた。
こくん、と。
(よし。
今のところ、バレてない……よね?)
胸の鼓動を必死で抑えながら、
“侍女”の顔を崩さないようにした。



