第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「――そこの侍女!」

ビクッ、と肩が跳ねた。
心臓が一拍、遅れて大きく鳴る。

「……はいっ」

できるだけ平静を装って振り返る。

「何をしているのですか」

鋭い視線、侍女長だろう。
一瞬でも気を抜けば、全部見抜かれそうだ。

「申し訳ありません。
道に迷ってしまいまして……まだ不慣れなもので」

軽く頭を下げながら、内心では必死に魔力を抑える。
さっきまで感じていた、あの嫌な共鳴を、悟られてはいけない。

「……もしかして、あなたは」

来た。

「はい。婚約者候補の侍女です」

一瞬の間。
相手の視線が、私を値踏みするように動く。

「そうでしたか。
それで、どちらへ?」

「紅茶の茶葉を切らしてしまいまして」

我ながら無難。
誰もが納得する理由。

「なるほど……では、こちらです」

促され、私は一歩、また一歩とその場を離れる。

背中に、あの部屋の気配を感じながら。

――くっ。

振り返りたいのを必死で堪え、
何事もなかったかのように歩き続ける。

ちゃんと調べられなかった。
けれど――

(……絶対、ここだ)

そう確信したまま、
その場を後にした。