第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「よし!」

満足げに頷いたお嬢様は、一歩下がって私を見上げた。

「完璧」

「ありがとうございます……?」
素直に喜んでいいのか判断に困る。

「でも、さすがに私の髪色は目立つよね」

スミレ色と桃色が混ざった、存在感のある綺麗な髪を指先でつまみながら、お嬢様は腕を組む。

「うーん……ウィッグ、あったかなぁ」

言うが早いか、荷物をガサガサと漁り始めた。

「お、お嬢様!?
そんな乱暴に扱って大丈夫なんですか!?」

「だいじょーぶだいじょーぶ」

――全然大丈夫そうじゃない音がしている。

「……あった!」

ぱっと掲げられたのは、落ち着いた色のウィッグ。

「よかったぁ〜。こんなこともあろうかと、前に用意してたんだよね」

「“こんなこと”の想定範囲が広すぎませんか?」

「備えは大事」

きっぱり言い切るその姿勢だけは、妙に説得力がある。

「よしできた! 私が侍女です!」

びしっと自分を指差し、

「アリスは――お嬢様!」

「逆です!!」

反射的にツッコミが出た。

「まさか……お一人で行かれるつもりですか?」

「そうだよ?」

即答だった。

「だって、魔宝石絡みならさ。不穏な空気とか黒いモヤとか、私なら感じ取れるかもしれないでしょ?」

「それは……確かに」

反論しかけて、言葉が詰まる。

「ねっ!」

勝ち誇った笑み。完全に“してやったり”の顔だ。

「……はぁ」

私は深くため息をついた。

「分かりました。ですが、その代わり――」

「その代わり?」

「絶対に無茶はしないでください。お嬢様」

「善処する!」

……一番信用できない返事だった。