第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

お嬢様がグッと伸びをして、こちらをみつめる。

「アリス、あの件はどんな感じ?」

軽い調子で聞かれ、私は一瞬だけ言葉を選ぶ。

「……怪しい場所は、いくつかございました」

「え、ほんと?」

お嬢様は椅子ごと前のめりになった。倒れそうで怖い。

「はい。明らかに使われていないのに掃除が行き届いている部屋と、なぜかいつも閉まっている部屋です」

「よし」

秒で決断した。

「アリス」

「はい」

「脱いで」

「――はい???」

脳が処理を放棄した。

「え、えっと……ど、どこを……?」

「全部」

「全部!? なんでですか!?」

思わず三歩下がる私を、お嬢様は三歩で詰めてくる。速い。

「早くしないと見回り来るよ?」

「それを先に言ってください!」

心臓が忙しい。色んな意味で。

「だって、私が行くと目立つでしょ? だから入れ替わるの」

「あ……潜入、ですか」

「そ。変装。アリスの服、借りるね」

「最初からそう言ってください……!」

ぶつぶつ言いながらも、私は観念して服に手をかける。

そこからは戦場だった。

「ちょ、そこ逆! 袖が前に来てる!」

「お嬢様こそ動かないでください! ボタン外れます!」

「えー、きつい〜」

「文句言わない!」

ばたばたと結び目を解き、着せ、直し、また直し。

ようやく鏡の前に立つと、そこには――

「……まさかまたこんな事をすることになるとは……」

「えー、前回ノリノリだったじゃん!」

「あの時と今では状況が全然違いますから!」

楽しそうに笑うお嬢様に、私は深いため息をついた。