第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

それから私は、お嬢様の侍女として、ずっとそばにいた。
お嬢様はいつも前を向いていた。
頑張り屋で、人のために傷つくことを厭わない人だった。

昔、どうしてそんなに頑張れるのですか、と尋ねたことがある。

そう聞くと、お嬢様は首を振って笑った。

「違うよ。全部、自分のため。
 私、計算高くて、けっこう悪役っぽいよ?」

そう言って笑うお嬢様は、悪役というにはあまりにも可愛らしかった。


◇

「ねぇ、アリス」

その声に、私はふと回想から引き戻される。

「はい。お嬢様」

いつも通りに姿勢を正す。

「何か考え事してた?」

「お嬢様との出会いを思い出していました」

お嬢様はきょとんと目を丸くした。

「懐かしいね。……もしかして、私の侍女になったこと、後悔してる?」

少しだけ不安そうに、こちらをうかがう。

「まさか。……まあ、でも穏やかとは、ほど遠い場所に来てしまいましたね」

「はは、それはごめんって」

「いえ」

「でも、いつもありがとう。私が立っていられるのもさ、アリスのおかげなんだから」

少し照れたように言うその声に、胸が温かくなる。

「お嬢様はお強いですよ。私がいなくても、きっと立って歩いていってしまいます」

「そう?」

「ええ。だけど――そうはさせません」

お嬢様が瞬きをする。

「貴女が立つなら、私も立ちます」

「……ふふ、頼もしい」

お嬢様は嬉しそうに笑った。その笑顔を見るだけで、私はまた強くなれる気がした。