第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

それから私は、お嬢様の侍女として、ずっとそばにいた。
お嬢様はいつも前を向いていた。
頑張り屋で、人のために傷つくことを厭わない人だった。

昔、どうしてそんなに頑張れるのですか、と尋ねたことがある。

そう聞くと、お嬢様は首を振って笑った。

「違うよ。全部、自分のため。
 私、計算高くて、けっこう悪役っぽいよ?」

そう言って笑うお嬢様は、悪役というにはあまりにも可愛らしかった。




「ねぇ、アリス」

その声に、私はふと回想から引き戻される。

「はい。お嬢様」

いつも通りに姿勢を正す。

「何か考え事してた?」

「お嬢様との出会いを思い出していました」

お嬢様はきょとんと目を丸くした。

「懐かしいね。……もしかして、私の侍女になったこと、後悔してる?」

少しだけ不安そうに、こちらをうかがう。

「まさか。……まあ、でも穏やかとは、ほど遠い場所に来てしまいましたね」

「はは、それはごめんって」

「いえ」

「でも、いつもありがとう。私が立っていられるのもさ、アリスのおかげなんだから」

少し照れたように言うその声に、胸が温かくなる。

「お嬢様はお強いですよ。私がいなくても、きっと立って歩いていってしまいます」

「そう?」

「ええ。だけど――そうはさせません」

お嬢様が瞬きをする。

「貴女が立つなら、私も立ちます」

「……ふふ、頼もしい」

お嬢様は嬉しそうに笑った。その笑顔を見るだけで、私はまた強くなれる気がした。