第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

父は、
私を侍女ではなく、
騎士に仕立てあげようとしていた。

ムーンストーンの適性を得たのだから、
当然だと言わんばかりに。

——けれど。

私は、嫌だった。

剣を振ることはできる。
訓練にも、ついていけた。

けれど、
それを「望んだ」ことは、一度もない。

私の手は、
誰かを傷つけるためのものではない。

そう思いながらも、
逆らう術はなかった。

そんな頃だ。

「こんにちは」

不意にかけられた、幼い声。

振り向くと、
そこにいたのは小さな少女だった。

柔らかなスミレ色と桃色の髪、
澄んだ蒼い瞳。

まだ子どもなのに、
不思議とこちらを“見ている”目。

「ねぇ、私の侍女にならない?」

あまりにも自然に、
そう言われて、言葉を失った。

「……なぜ、侍女、なのですか?」

戸惑いながら、そう返す。

「私は今、剣を持っていますし……」

すると少女は、
少しだけ首を傾げた。

「え?」

次の瞬間、
何気ない調子で言う。

「だって、服のしわが綺麗に伸びてるでしょ」

視線が、
私の袖口に落ちる。

「髪も、ちゃんと手入れされてる」

「それに……」

私の手を、じっと見つめて。

「手荒れ、してるね」

——心臓が、跳ねた。

「剣を持つ手って感じじゃない」

静かな断定。

「誰かの世話をする人の手」

一瞬、言葉が詰まる。

「……失礼、だったかな?」

そう言って、
少女は少しだけ困ったように笑った。

その笑顔を見た瞬間。

胸の奥で、
何かが、はっきりとほどけた。