第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ひらりと人がいないのを見計らい、廊下を歩いていた人物にそっと声をかけた。

「アリス」

「テオ。……やはり来ていたのですね」

表情を崩さないところは相変わらずだ。

「まあね」

軽く笑ってみせる。

「そっちはどう?」

「怪しい場所はいくつかあります」

「そっか。こっちも似たような感じ」

短く情報を交わす。
言葉は少ないのに、互いに理解できるのはやりやすい。

「……お嬢様が、また危険に突っ込もうとしています」

「だろうねぇ」

「いま、お嬢様を守れるのは私たちだけです」

「わかってるよ。お嬢さまは、傷つけさせない」

アリスが静かに頷く。

「お嬢さまに嫌がらせしている者たちですが」

「うん」

「もし、これ以上ひどくなるようなら……“反省”してもらう必要があるかと」

アリスの声は淡々としているのに、奥に冷たい決意がある。

「……反省ねぇ。どの程度?どこまでやっていい?」

「お嬢さまが困らない範囲で。
せめて……“馬糞まみれ”くらいには」

「……それ、いいね」

2人で小さく頷き合う。

お嬢さまを曇らせるものは、影でそっと処理する。
それが、2人の暗黙の役目だった。