第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

お嬢さまが弱っている。

その顔を見るたび、胸の奥がざわついて落ち着かない。
そろそろ、直接声をかけないと俺も限界だった。
夜、お嬢さまのもとへ向かった。

まるで偶然来たような顔をして。
本当は、ずっと話したくて仕方なかったのに。

『愛の逃避行、する?』

そう言ったら、お嬢さまは本気で悩んでいた。
その表情がたまらなく愛しい。

お嬢さまが望むなら、どこへだって連れていく。
世界の端でも、誰も知らない場所でも。

でも、お嬢さまは“逃げたいけど逃げたくない”顔をしていた。
その葛藤すら、可愛い。

話しているうちに、お嬢さまの表情が少しずつ緩んでいく。
甘やかして、褒めて、肯定して。
俺の言葉は、お嬢さまのためならいくらでも出てくる。

触れるつもりはなかった。
でも気づけば、抱きしめていた。

お嬢さまは優しいから、そのまま受け止めてくれた。…
…ああ、可愛い。
好きだ。
本当に、全部捨てて愛の逃避行をしてしまいたい。

でも、それはできない。
お嬢さまが“最後まで頑張る”と決めたから。
だから俺も、衝動を押し殺す。

どうか、悪意に飲まれないで。

どうか、俺がそばにいることを忘れないで。