第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランside

ざわざわと、令嬢たちの声が広間に渦巻いていた。
試験を終えたばかりの空気特有の、張りつめたざわめき。

視線の先に、ローゼの姿を見つける。

「どうしたんだい?」

声をかけると、彼女は一瞬肩を跳ねさせ、すぐに頬を赤らめた。

「実は……先ほど、ジョルジュ陛下直々の試験がありまして」

胸の奥で、何かが小さく軋んだ。

「別会場で、個別に試験を受けましたの」

「……そうか」

「はい。ローゼ様が選ばれたのですよね」

別の令嬢が興奮気味に口を挟む。

「でも……ティアナ嬢も、ですよね」

その名前を聞いた瞬間、心臓が重く脈打った。

「……そういえば」

俺は周囲を見回す。

「ティアナは、まだ戻っていないな」

短い沈黙。
令嬢たちの表情が、微妙に曇る。

「どこに案内されたんだ?」

問いかけると、一人が言葉を濁しながら指差した。

「た、たぶん……あちらの方かと……」

その方向を見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。

——あそこは。

胸の奥で、警鐘がひどく強く鳴り始める。
理由はわからない。
だが、行かなければならないと、身体が先に理解していた。

無意識のうちに拳を握りしめていた。

「失礼する」

それだけ告げ、俺は歩き出した。
歩幅はすぐに速まり、気づけば駆けていた。

胸の奥の警鐘は、もう止まらない。

(——どうか、無事でいてくれ)