第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


ティアナside

もう一つの扉が静かに開き、ジョルジュ陛下が立っていた。
いつからそこにいたのか——気配すら感じなかった。

「ティアナ嬢」

「……はい」

「先ほどの課題、見事だった。偽物を見抜くのも早かったな」

「ありがとうございます」

声は平静を保った。
だが、背中を冷たいものがゆっくりと這い上がる。

「では、2つ目の試練はどうだった?」

一瞬、言葉を選ぶ。

「……不思議な宝石でした」

「ほう?」

「触れる者の力を試しているようでいて……
引き出そうとしているようにも感じました」

短い沈黙。
その刹那、陛下の瞳がわずかに細まる。

「怖くはなかったか?」

私は視線を逸らさず、答えた。

「……正直に申し上げますと、怖かったです」

息を整え、続ける。

「ですが……怖いからといって、手を離すべきものではないと感じました」

しん、と空気が凍りつく。

「……そうか」

陛下はゆっくりと微笑んだ。
皺の刻まれた口元が、妙に深く、沈むように歪む。

「よい心構えだ。王妃には、必要な資質だろう」

その言葉に、背筋が凍りついた。

——違う。

これは称賛ではない。
確認だ。

その瞬間、理解してしまった。

——私は、完全に“見られた”。

守るべき存在としてでも、選ばれる存在としてでもない。
“使えるかどうか”を量られる側として。

そして、ディランを見るあの目…
今はっきりと確信した。

かつてガイルが私を見たときと同じ——
人ではなく、“器”を見る目。

陛下はすでに答えを持っている。
私はただ、それに気づいてしまっただけ。

(……何を企んでいるの?)

胸の奥がざわつく。
宝石に触れたときの、あの“吸われる感覚”が蘇る。

(——いいえ)

(誰のために、何を“させるつもり”なの……?)

その問いだけが、静かに、深く沈んでいった。