そして私は、その魔宝石に触れた。
触れた瞬間、胸の奥がひやりと沈む。
まるで、心臓の鼓動が一拍だけ遅れたような、不自然な静けさ。
(……なに、これ)
これは試験のための魔宝石じゃない。
もっと深いところ——私の“内側”を覗き込む何かだ。
測られている?
そんな生易しいものじゃない。
——吸われている。
魔力が、細い糸で引き抜かれるように、静かに、確実に奪われていく。
乱暴ではない。むしろ丁寧すぎて、逆に恐ろしい。
まるで、私の魔力の“形”を確かめながら、必要な部分だけを選び取っているような。
透明だった宝石が、赤、青、緑……
色を混ぜながら、ゆっくりと渦を巻き始める。
その渦は、ただの光ではなかった。
——脈打っている。
まるで呼吸するように、こちらの魔力に合わせて膨らんだり、縮んだりしている。
(……生きてる?)
喉がひりつく。
ジョルジュ陛下の言葉が、冷たい刃のように脳裏をかすめた。
(器……)
その単語が、今は妙に現実味を帯びて迫ってくる。
私は懐に手を入れ、短剣のラピスラズリに触れた。
石の冷たさが、皮膚を通して骨まで染み込む。
(壊すのはだめ—)
宝石が、こちらの思考を読んだように、色を濃くした。
赤が一瞬だけ強く光り、心臓が跳ねる。
(……見てる)
確信に近い恐怖が背筋を走る。
この宝石は、ただの道具じゃない。
“選んでいる”。
“試している”。
そして——“欲している”。
深く息を吸い、魔力の流れを整える。
ラピスラズリの冷たさが、かろうじて私を現実へ引き戻す。
——抑える。
——飲まれない。
——共鳴して、流れを変える。
「……蒼き想いよ。応えて。ラピスラズリ」
祈りにも似た願いを込めると、宝石の渦がわずかに緩む。
吸われる魔力が、少しだけ穏やかになる。
宝石はゆっくりと透明に戻っていく。
だけど…じっとこちらを見ているようだった。
沈黙しているだけで、意志は消えていない。
(……これで、なんとか)
そっと手を離す。
試験は続いている。
ただ、その裏で宝石が何を“判断”したのか——あの人にしかわからない。



