第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「ティアナ・ラピスラズリ様」

「こちらへお越しください」

案内されたのは、ローゼとは反対側の廊下だった。
人の気配が薄く、壁にかかった燭台の炎だけが、かすかに揺れている。

立ち止まった先には、重厚な扉が一つ。
装飾はなく、取っ手だけが鈍く光っていた。

「……中へ」

促されるまま足を踏み入れた瞬間——

ガチャリ、と背後で扉が閉じた。

重く、確実に。
まるで“外界”を断ち切るように。

その一瞬で、空気が変わった。
温度が下がり、音が吸い込まれる。

——嫌な予感がする。

罠か。
試験か。
それとも、もっと別の何かか。

まだ何も調べていない。
なのに——悟られたのだろうか。
私が、警戒していることを。

部屋の中央に置かれていたのは、小さな机と宝石箱。
その横に、一枚の紙。

『宝石を鑑定し、偽物を選べ』

……そう来たか。

私は椅子に腰掛け、静かに手袋をはめる。
箱に触れる前から、かすかに黒いモヤのようなものが漂っているのを感じた。

蓋を開ける。

どれも美しく、申し分ない輝きを放つ宝石たち。
だが、その中に——一つだけ、違うものがある。

(これ……)

手に取るまでもない。
他と比べて、カットがわずかに浅い。
精巧だが、完璧ではない。

——偽物。

私はそれを指定された場所へ置いた。

沈黙。
誰も、何も言わない。
だが、見られている気配だけが、背中に張りつく。

次の指示が目に入る。

『この宝石に、魔力を注げ』

……何を測るつもりだ。

魔力量か。
適性か。
それとも——“別の何か”か。

机の上に置かれた透明な宝石は、以前の魔宝石適正判定に似ている。

《魔宝石適正判定》。

一切の色を持たない透明な魔法石。
まだ何者にも染まっていない“空の器”。

その石に触れた瞬間、
魔力の質、精神の在り方、感情の傾向、意志の強度――
すべてが同時に測定されるもの。


けれど、あの時とは違う。

胸の奥が、ひどく冷える。

まるで、触れた瞬間に“何か”が目を覚ますような——
そんな予感がした。