第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


翌日。

王妃教育の場に、
予告もなく——ジョルジュ陛下が現れた。

その瞬間、
空気が、ひどく静かになった。

背筋を正した立ち姿。
無駄のない所作。
ただ、そこに立っているだけなのに——

令嬢たちの呼吸が、揃って止まる。

「……」

ざわめきすら、許されない。

「よく、集まってくれた」

低く、よく通る声。
だが温度がない。
響くのに、届かない声。

「ここにいる者たちは、
 ディランを次期国王として支える、
 未来の王妃候補だ」

一拍の沈黙。

「——その覚悟を試す」

令嬢たちの間に、冷たい波が走った。

「試練……?」

小さな声が、あちこちで震える。

「難しいことではない」

陛下は淡々と続ける。
その“淡々”が、逆に恐ろしい。

「王妃教育の経過を、
 この目で見せてもらおう」

その視線が、
ゆっくりと列をなぞる。

「挨拶から、食事まで」

「私と——ともに、だ」

言葉は穏やか。
だが、胸の奥が冷える。

——“見せる”のではない。
“測られる”。

その感覚が、骨の内側にまで染み込む。

急な宣告に、令嬢たちは隠しきれない動揺を見せた。
それでも、誰一人として声を上げられない。

一人ずつ、挨拶が始まる。

ジョルジュ陛下の前に立っただけで、
名前を噛んでしまう者。

震える手でナイフを落とし、
音に怯えて謝罪する者。

紅茶を注ぐ途中で手が滑り、
淡いドレスを汚してしまう者。

——責められたわけではない。
叱責もない。

それでも。

この人が、そこに“いるだけ”で。

耐えがたい圧が、場を支配していた。

私は、黙って食事を終える。
音を立てず、視線を落としすぎず、
ただ“無難に”。

けれど、胸の奥では別の感覚が蠢いていた。

——この人は、何を見ている?

——何を“選ぼう”としている?

その答えに触れたくないのに、
視線の端で、陛下の目がわずかに細められた気がした。