翌日。
王妃教育の場に、
予告もなく——ジョルジュ陛下が現れた。
その瞬間、
空気が、ひどく静かになった。
背筋を正した立ち姿。
無駄のない所作。
ただ、そこに立っているだけなのに——
令嬢たちの呼吸が、揃って止まる。
「……」
ざわめきすら、許されない。
「よく、集まってくれた」
低く、よく通る声。
だが温度がない。
響くのに、届かない声。
「ここにいる者たちは、
ディランを次期国王として支える、
未来の王妃候補だ」
一拍の沈黙。
「——その覚悟を試す」
令嬢たちの間に、冷たい波が走った。
「試練……?」
小さな声が、あちこちで震える。
「難しいことではない」
陛下は淡々と続ける。
その“淡々”が、逆に恐ろしい。
「王妃教育の経過を、
この目で見せてもらおう」
その視線が、
ゆっくりと列をなぞる。
「挨拶から、食事まで」
「私と——ともに、だ」
言葉は穏やか。
だが、胸の奥が冷える。
——“見せる”のではない。
“測られる”。
その感覚が、骨の内側にまで染み込む。
急な宣告に、令嬢たちは隠しきれない動揺を見せた。
それでも、誰一人として声を上げられない。
一人ずつ、挨拶が始まる。
ジョルジュ陛下の前に立っただけで、
名前を噛んでしまう者。
震える手でナイフを落とし、
音に怯えて謝罪する者。
紅茶を注ぐ途中で手が滑り、
淡いドレスを汚してしまう者。
——責められたわけではない。
叱責もない。
それでも。
この人が、そこに“いるだけ”で。
耐えがたい圧が、場を支配していた。
私は、黙って食事を終える。
音を立てず、視線を落としすぎず、
ただ“無難に”。
けれど、胸の奥では別の感覚が蠢いていた。
——この人は、何を見ている?
——何を“選ぼう”としている?
その答えに触れたくないのに、
視線の端で、陛下の目がわずかに細められた気がした。



