第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

その日の夜——。

月明かりが、冷たく差し込むなかで、

「やっほー、お嬢さま」

ひそやかな声とともに、影がひとつ現れる。

「……いいところに来たね、テオ」

「お嬢さまが俺に会いたいかと思ってね」

その姿を見た瞬間、張りつめていた胸の奥が、わずかに緩む。
けれど、安堵は長く続かない。夜気が、妙に重い。

私は簡潔に、ジョルジュ陛下のこと、
そしてディランを見る視線の“異質さ”を語った。

「……何も、なければいいんだけど」

言い終えたあと、部屋の空気が一拍だけ止まる。

テオは、静かに頷いた。

「わかった」

その声は軽いのに、どこか底が深い。
余計な質問は一つもない。

「任せて」

短い言葉なのに、妙に心臓の奥を掴まれる。

「……ありがとう。
 無理は、しないでね」

「うん」

いつもの軽い返事。
だが、その目はすでに“夜の仕事”の色に沈んでいた。

「お嬢様も、気をつけて」

「ええ」

短く返した瞬間——

テオの輪郭が、ふっと揺らぎ、
音もなく闇へと溶けていく。

まるで、最初からそこにいなかったかのように。

残された部屋には、
月明かりと、夜の静けさだけが戻る。

だがその静けさは、
さっきまでとは、まるで違うものだった。

——動き出した。

胸の奥で、はっきりとそう告げる声がした。