第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「伯爵家のみんなは元気?」

そういって、クッキーを齧りながらアリスを見る。バターが香ばしくておいしい。さすがユウリ。センスあるお土産だ。

「セナ副団長は、騎士団統合の件で相変わらずバタバタしておりますね」

「だよね……セナ、ちゃんと休めてるのかな」

「レオは、お嬢様に美味しいものを食べさせたいと張り切って、新しいメニューを考案していましたよ」

「……楽しみだなぁ」

思わず声が緩む。

「ルイさんも、お店がかなり忙しいようです」

「繁盛してるなら、何よりだね」

「それから……アレンとロベルトも変わらず元気にしております」

「なら良かった」

「テオは……最近は見かけていませんね」

「そっか」

テオは、あの日わざわざ会いに来てくれた。
そのことを思い出すと、自然と頬がゆるむ。


「やっぱりお嬢様がいらっしゃらずみんな寂しそうでした」

「そう?」

「はい」

——みんな、変わらない。
それだけで胸の奥がじんわりと温かくなる。

「あと、こちらを」

アリスが差し出したものを見て、私は思わず目を見開いた。

「……鍵!」

「はい」

胸が高鳴る。

「これで、魔宝剣を取り出せる!」

急いで金庫を開け、そっと中からそれを取り出す。

「……会いたかったよ、ラピスラズリ」

ぎゅっと抱きしめ、頬をすり寄せる。

「……お嬢様、少し気持ち悪いです」

「失礼な!」

即座に言い返す。
けれど、その声音がいつも通りで、なんだか安心してしまう。

「それよりも……」

アリスがふと真剣な目を向けてくる。

「お嬢様。何か、悩んでいらっしゃるのでは?」

「……ちょっとね」

「まさか、いじめられたのですか?」

「あー……少し」

苦笑しながら肩をすくめる。

「無視されたり、魔女だって陰口を言われたり」

「……なんですって」

アリスの声が低くなる。

「どこのどいつですか。私が今すぐ殴り込みに——」

「大丈夫、大丈夫」

慌てて手を振る。

「それにね……ひとり、友達もできたの」

「……それは」

アリスの表情がふっと和らぐ。

「よかったです」

「うん」

私は小さく頷いた。