「君に引き留められるのは、悪い気がしないな」
「……す、少しだけです」
そう言った瞬間。
——ガチャ。
扉の閉まる音がした。
「……ディラン」
「ん?」
「今……ガチャって……」
「うん、鍵を閉めた」
「……なぜ?」
一拍置いて、彼はゆっくり笑う。
その笑みは、少し意地悪で、でもどこか甘い。
「君を、逃さないために……かな」
言い終わる前に、私はそっと彼の胸に額を預けた。
——コテン。
「……どうした?」
「王妃教育……」
声が、少しだけ震える。
「思ったより、大変です」
「……うん」
否定も、励ましもない。
ただ、私の声を受け止めるような、静かな返事。
「お茶を飲んで、食事をして、刺繍して……」
「……」
「正直……退屈です」
「……そうだね」
頭の上から、優しく撫でられる。
その手つきがあまりに自然で、胸がじんわり温かくなる。
「それに……」
少し、間を置いて。
「無視、されます」
「……それは、ひどいな」
「魔女だ、とか……言われてます」
ディランの胸が、小さく震えた。
怒りとも、悲しみともつかない感情が伝わってくる。
「……こんな可愛い魔女なら、むしろ大歓迎だろう」
「……」
その言葉が、胸の奥にそっと落ちる。
甘くて、くすぐったくて、泣きそうになる。
「それでも……」
「うん」
「……ひとり、友達ができました」
「……それは、良かった」
その声は、ちゃんと“心から”だった。
私の幸せを願ってくれているのが、はっきりわかる声だった。



