第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランと、静かに手を繋いで歩く。

……言うべきだろうか。

あの視線の違和感。
胸に引っかかる、言葉にできない不安。

——いや、まだだめだ。
確証もない、ただの主観を伝えるべきじゃない。

「……怖い人だろう」

不意に、ディランが口を開いた。

「あの人は……」

「……そうですね」

「昔、あの人の前に立つと、
 ひどく震えたよ」

苦笑するような声。

「必死に、隠していたけどね」

「……そうなんですか?」

「ああ」

少し間があって、

「ディランにも、怖いものがあるのですね」

「そりゃあ、あるさ」

軽く言ったあと、
ふっと声が落ちる。

「……でも、今一番怖いのは」

足を止める。

「君が、俺のそばからいなくなることだ」

そっと、頬に触れる。

あたたかくて、
優しくて——
逃げ場のない温度。

「……ディラン」

「さて」

名残を断ち切るように、彼は微笑んだ。

「散歩の時間は終わりだ」

「……はい」


部屋の前まで送ってくれて、
一歩、距離が空く。

「じゃあまたね」

その瞬間。

名残惜しさに、
気づけば——

私は、ディランの服の裾を掴んでいた。