第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「とりあえず、レイ。この件は内密に」

「もちろんです」

「……すみませんでした」

私が短く頭を下げると、レイさんは何も言わず静かに一礼し、部屋を出ていった。
扉が閉まる音が、やけに大きく響く。

残されたのは、ディランと私だけ。

「ティアナ」

「……はい」

「気が利かなくて、悪かったな」

思いがけない言葉に、思わず目を瞬かせる。

「い、いえ……勝手に持ち出したのは私ですし……」

「君がじっとしていられないのは、わかっていたはずなのにな」

その言葉に、胸の奥がきゅっと縮む。

「……すみません」

「怒ってはいないよ」

穏やかな微笑みが向けられる。
その表情を見た瞬間、張りつめていたものがふっとほどけた。

「ただ……」

ディランは少しだけ言葉を探すように視線を落とす。

「君には、随分窮屈な思いをさせているな」

その視線が、窓の外へと逸れた。

「正直……どうするのが正解なのか、わからないんだ」

ゆっくりと、こちらを向く。

「君のそばにいたい。
 でも……」

そこで言葉は途切れた。
代わりに浮かんだのは、どこか刹那的な、苦笑い。

その笑みが、胸の奥にじんわりと広がる痛みを残す。