第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

コンコン、と扉が叩かれた。

「ティアナ様……入りますよ」

そう声をかけて入ってきたレイさんが、部屋の中央でぴたりと動きを止めた。

その背後から、落ち着いた低い声が続く。

「どうした、レイ」

二人の視線が、同時に私へ向けられる。

私は——
剣を手にしたまま、固まっていた。

「ティアナ様……な、なにをしておられるのですか?」

「えっと……」

ほんの一瞬、空気が止まる。

「素振り、です」

その瞬間。

「くっ……くくく……」

ディランが肩を震わせ、次の瞬間には盛大に吹き出した。

「はははははは!」

笑い声が部屋いっぱいに響く。
レイさんは笑うどころか、むしろ目が細く鋭くなっている。

一通り笑い終えたディランは、お腹を押さえながら目尻に涙を浮かべていた。

「あー……お腹痛い……」

レイさんは静かに一歩近づき、淡々とした声で言う。

「とりあえず、その手に持っているもの——預かってもよろしいですか?」

「……はい」

私は素直に剣を差し出した。

その後、私たちは向かい合って席に座らされる。

「先ほどの剣は、どちらから?」

「えっと……廊下にあった甲冑から、拝借しました」

「……よく、持てましたね」

「意外と、いけました」

「……いけてしまったんですね」

「はい……」

しゅん、と肩を落とす私に、レイさんは深いため息をついた。
その横で、ディランはまだ笑いを堪えきれず、時折肩を震わせている。